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【考察】念仏往生の法義と信心正因、平生業成について(12)

利他」とは、『浄土論』の「利益他功徳」や「回向利益他行成就」等の略語で、利他力とも他力とも言います。意味としては「阿弥陀如来が衆生を救済するはたらき」ということですが、今回の記事では、この「他力」の「」とは何を指すのかについて考察します。親鸞聖人は『行文類』

他力といふは如来の本願力なり。

とだけ仰って、後は『浄土論註』と元照律師の『観経義疏』の引文のみです。

他力」=「如来の本願力

ということで、阿弥陀如来の本願力ということは間違いありません。これを文の当面から見れば

」⇒如来
」⇒本願力

と配当するように思えます。頂いたコメントによると、稲城選恵和上は

すなわち「他力と云うは如来の本願力なり」である。「他」は如来であり、「力」は本願力である。(『大乗仏教の極致としての他力本願ということ』P25)


と説明されています。また『大辞泉』「他力」、『広辞苑』第五版、「他力」の説明では「他」とは阿弥陀如来を指しているというのです。


ところが、『浄土論註』の引文を読んでみると一概にそうは言えないようです。というのも、『論註』には

しかるに覈に其の本を求むれば、阿弥陀如来を増上縁とするなり。他利と利他と、談ずるに左右あり。もし仏よりしていはば、よろしく利他といふべし。衆生よりしていはば、よろしく他利といふべし。いままさに仏力を談ぜんとす、このゆゑに利他をもつてこれをいふ。まさに知るべし、この意なり。およそこれかの浄土に生ずると、およびかの菩薩・人・天の起すところの諸行は、みな阿弥陀如来の本願力によるがゆゑに。

と書かれているからです。

まず曇鸞大師は、「衆生が速やかにさとりを得ることの根本を明らかにするなら、阿弥陀仏をそのもっともすぐれたはたらきとするのである」と述べられた後、

他利と利他と、談ずるに左右あり。もし仏よりしていはば、よろしく利他といふべし。衆生よりしていはば、よろしく他利といふべし。

と仰っています。他利と利他とについては、何を語ろうとするかによって左右の違いがある。仏(阿弥陀仏)の側から言えば「利他」といい、衆生の側から言えば「他利」という、というのです。

これはどういうことかと言いますと、一つの阿弥陀仏の衆生救済の道理を阿弥陀仏の側から明かせば、「」である阿弥陀仏が「」なる衆生(私)を済度するということであり、一方で衆生の側から明かせば、「」である阿弥陀仏が「」である衆生(私)を救うということになります。

仏からすると、「」である衆生(私)を利するのであるから「利他」であり、一方で衆生(私)からすると、「」である阿弥陀仏が利するのであるから「他利」というのだというのです。このように、誰を主体とするかで自と他の意味するところが違ってきますから、「他利と利他と、談ずるに左右あり」と言われたのでしょう。そして

いままさに仏力を談ぜんとす、このゆゑに利他をもつてこれをいふ。

今は仏力を談じようとしているのだから、仏を「」として衆生を「」と呼ぶ表現である「利他」がふさわしいと仰せられています。ですから、本来の意味での「他力」とは、阿弥陀仏を「」、衆生を「」として「」を利する阿弥陀如来の本願力ということだったというのが、『浄土論註』より読み取れる他力観です。

ただ、見方によって左右の違いがありますから、衆生(私)を「」とすれば阿弥陀仏は「」です。それで私を主体とすれば「他力」の「」は阿弥陀仏です。稲城選恵和上や『Wikipedia』の説明は、そのような立場から「他力」を表現したものと考えられます。


それで、問題は「他力」の「」を衆生のことだとするのになぜこだわるのかということです。「」が阿弥陀仏であろうが私であろうがどちらでもいいのなら、長々とこんなことを書き連ねる必要はないからです。「他力」の「」を衆生と領解することがどのような事柄を表しているのか、以降は淳心房の考察です。

それは一つには、阿弥陀仏を中心とした秩序のある世界観を表していると考えられます。私達は自己中心的な想念に支配され、自らを信じ、自己をたのむ自力心から離れることができません。私を救済する阿弥陀如来の本願力がましますと聞いても、それを受け容れなければ無いのも同じです。そこで、阿弥陀仏を中心とした秩序のある世界があり、自力を捨てて他力に帰することが救いの肝要であることを示すために、阿弥陀仏を「」、私を「」とする他力観を『浄土論註』の引文によって表されたのではないでしょうか。

二つには、「他力」という字の中に私がかっちり組み込まれることによって、「他力」と言っても「この私」を救済する力以外の何物でもないということを表していると考えられます。阿弥陀仏の救済と聞いても、おとぎ話のようにしか思えなかったり、他人事のようにしか思えなかったりするのは、阿弥陀仏は「この私」を目当てに救おうと本願力を成就されたとは思えないからではないでしょうか。「他力」と言っても、ただ単に「」なる阿弥陀仏のお力と理解していては、そうなってしまうのも無理からぬことです。

他力」とはおとぎ話でも、自分とは関係ないどこかの世界で空転しているものでもありません。現に今、ここに生きている「この私」を目当てとして、常に浄土へ導こうとはたらいておられる、それが「他力」すなわち阿弥陀如来の本願力なのです。「他力」の字の中に私がしっかり織り込まれていることで、私を離れた本願力も、本願力を離れた私も無いということを私達に暗に示しているのではないでしょうか。

そして三つには、阿弥陀仏の衆生救済の道理が自力成仏の因果の枠組みを超えた「理外の理」であり、自力聖道門とは全くその理論を異にする他力浄土門のあることを表していると考えられます。

というのは、それまでにも阿弥陀仏の浄土に往生する浄土門の教えはあるにはありましたが、それはあくまで自力聖道門の延長線上のものだったのです。この世では修行を妨げる悪縁があまりに多く、さとりが開けないというので、そのような悪縁の全くない清らかな土で修行を完遂し、さとりを開こうというのが浄土願生者の考えでした。要は自力修行を補完するための補助的手段としての浄土門しかなかったのです。

自力聖道門の教えは、確かにその理論も実践も崇高なものですが、その分反って多くの脱落者を生み出してゆきます。それは極めて勝れた資質をもった聖者のみが歩める道であって、特に末法の世の煩悩具足の凡夫が救われる教えではなかったのです。法然聖人、親鸞聖人は、教義の浅深よりも、三学の器でない自身が救われる道はないかという極めて現実的な立場から、本願他力の救いに帰依し、教えを説かれたのでした。

しかしその法然聖人の流れを汲む者の内、その自力、他力に対する見解は一様ではありませんでした。例えば今の鎮西浄土宗では、衆生を救済する阿弥陀仏の助縁としてのはたらきを他力と言い、全分の他力ということは認めません。あくまで因縁果の道理の上で、私が本願を信じ念仏を称えるという因(自力)に、阿弥陀仏の本願力という強力な縁(他力)が組み合わさって、浄土往生するというのです。聖道門に対して自力が弱く他力が強いという面はありますが、私を中心、私を主体とした世界観に、阿弥陀仏の助縁他力が加わるという理論ですから、基本的な考え方は聖道門と変わりません。

それに対して如来中心の世界観を示し、私が本願を信じるのも、念仏を申すのも、浄土に往生するのも、果ては再び迷いの世界に還り来て衆生を思うが如く救済するのも、すべて阿弥陀仏の本願力のはたらきによってなさしめられるものであるというのが親鸞聖人の領解でした。これが、如来を中心(自)とし、衆生をその客体(他)とする他力観です。主体の転換により、全ての宗教現象を如来の衆生救済の活動相と見られたのです。


このようなことですから、「他力」の「」は、「」なる阿弥陀仏によって救われるという自分中心の世界観で捉えるのではなく、阿弥陀仏が「」なる衆生(私)を本願を信じ念仏する衆生に育て上げ、往生成仏させるという如来中心の世界観のあることを私達に知らせているという意味を込めて、私は「私達衆生」のことだとする説に賛成したいと思います。

それを受けての、「」なる阿弥陀仏によってお救い頂くことの有難さよ尊さよと本願を仰ぎ念仏申し上げるということであれば、「」を阿弥陀仏のことだとしても何の問題もありません。私達の側から言えば「他利」であって見方の違いに過ぎないからです。ですから聖人は、「他力」の「」について具体的な釈を加えなかったのではないかと考えられます。その点、先日は一方的な見方と受け取れる書き方をしてしまいました。この場で改めて訂正しておきます。



【参照】
『WikiArc』他力
『WikiArc』親鸞聖人の他力観
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プロフィール

淳心房&しゃあ

Author:淳心房&しゃあ
(淳心房)
平成21年10月に親鸞会を退会し、「親鸞聖人の正しい教えを真偽検証する」ということで、専らコメンテーターとしてやってきました(^^)v
しかし、ようやく自分の中での真偽検証は終了したので、名前も改め、淳心房と名乗ります♪
ただし「真偽検証」は今まで馴れ親しんだ名前ですし、親鸞会教義が親鸞聖人の正しい教えなのかどうなのか、一人一人が真偽を検証して頂きたいと思い、ブログのタイトルとして残しました。
一人でも見て下さる方があれば幸いです☆


(しゃあ)
平成21年8月に親鸞会を退会しました。淳心房さんと共同でブログを書いています。何かありましたらメール下さい~
singikensho@yahoo.co.jp
(スパム防止のため@を大文字にしてあります。メール送信時は小文字に変えて下さい。)

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